フリーランス法の勧告・指導から見る発注者の失敗

勧告に至った発注者の問題は、明示しない、期日を決めない、差し引く、の三つにほぼ集約されます。公表資料から違反の型だけを取り出し、自社の発注書、経理の設定、募集、相談体制、終了の通知を点検する手順にまとめます。

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契約書は整っていても、実際の発注は口頭とチャット、支払は請求書の到着日起点、報酬は自動で手数料を差引、という運用が勧告の対象になっています。事業者名ではなく、型で読みます。

このページの要点

  • 勧告の概要は、取引条件の明示(3条1項)、期日における報酬の支払(4条)、報酬の減額(5条1項2号)の型が中心。措置全体でも、支払期日と明示の類型が各4割前後を占める(公正取引委員会の令和7年度の運用状況)。
  • 振込手数料の差引は、合意がない、実費を超える、のほか、令和8年1月1日以降の1か月以上の業務委託では、合意があっても減額に当たる扱い。名目を変えた差引も実質で見られる。
  • 費用上昇を協議せずに据え置く、販促のための体験を無償でさせる、といった報酬の決め方も勧告の対象(5条1項4号、5条2項1号)。取適法の勧告には、無償の保管や手形・換金が困難な支払手段の型が出る。
  • 労働局の指導では、業務委託先向けのハラスメント窓口がない、予告や理由開示を口頭だけで行った、募集情報が古いままだった、といった型が示されている。記録の残る運用に改める。

結論:勧告に至った発注者の失敗は、「明示しない」「期日を決めない」「差し引く」の三つにほぼ集約される

公正取引委員会の勧告一覧と報道発表資料を読み比べると、フリーランス法の勧告を受けた発注者が問われているのは、特別に悪質な行為というより、日々の発注と経理の運用の積み重ねです。公表されている概要には、取引条件を書面や電磁的方法で示していなかった、報酬の支払期日を決めておらず受領した日までに払っていなかった、報酬から手数料などの名目で差し引いていた、という行為が繰り返し出てきます。この傾向は、公正取引委員会が令和8年6月に公表した令和7年度の運用状況の集計にも表れています。措置(勧告または指導)の違反類型のうち、期日における報酬支払義務に関するものが約4割、取引条件の明示義務に関するものが約4割、買いたたきが1割弱で、この3類型で全体の9割を超えています。

もう一つの共通点は、規模と期間です。勧告の概要は、一定の期間にわたって多数の特定受託事業者に同じやり方を続けていた、という形で書かれています。1人の相手へのうっかりではなく、発注書の様式、締め日の設定、経理システムの差引の設定のように、社内の仕組みそのものが法の求める形になっていなかったことが問題にされています。減じていた額について、勧告の前に特定受託事業者へ支払った旨が注記されている事案もあり、気づいた時点で是正して返す、という対応が前提になっていることもうかがえます。

このページでは、事業者名、件数、金額は取り上げず、違反の「型」だけを取り出します。自社の発注書、契約書の条項、経理の処理、募集の掲載を型に当てはめて点検するための整理です。次の順に読みます。

  1. 勧告・命令・公表・指導・助言の仕組みと、公表資料の読み方。
  2. 型1 取引条件を示さない、一部しか示さない(3条1項)。
  3. 型2 支払期日を決めていない、60日を超える、請求書や事務処理の遅れを理由に払わない(4条)。
  4. 型3 報酬から差し引く:振込手数料と、手数料・管理料などの名目の差引(5条1項2号)。
  5. 型4 協議なしに報酬を据え置く、無償で提供させる(5条1項4号、5条2項1号)と、取適法の勧告に出る型。
  6. 厚生労働省・都道府県労働局の指導に見られる型(12条・14条・16条)と、自社の点検。

条文ごとの点検は禁止行為の点検のページ、申出を受けた後の流れはトラブル時のページで扱います。このページは、公表事例の読み方に絞ります。

勧告・命令・公表・指導の仕組みと、公表資料の読み方

フリーランス法の執行は、取引の適正化に関する部分(3条から6条)を公正取引委員会と中小企業庁、就業環境の整備に関する部分(12条から16条)を厚生労働省が担います。手段は、違反を認めたときに是正の措置を求める勧告、勧告に従わないときの命令、命令をしたときの公表、そして、法の施行に必要なときに行う指導・助言です。申出を受けて調査する仕組みも用意されています(6条、17条)。

フリーランス法の執行の手段(条文の整理)

担当勧告の対象になる条勧告に従わないとき指導・助言
公正取引委員会(中小企業庁と連携)3条(明示)、4条5項(期日における報酬の支払)、5条(禁止行為)、6条3項(申出を理由とする不利益取扱い)。それぞれ、速やかに明示する、報酬を支払う、減じた額を支払う、報酬の額を引き上げる、といった措置を求める内容が条文に書かれている(8条)。命令ができ(9条1項)、命令をしたときはその旨を公表できる(同条2項)。業務委託事業者に対して、施行に必要なときに指導・助言ができる(22条)。
厚生労働大臣(権限の一部は都道府県労働局長)12条(募集情報)、14条(ハラスメント対策の体制)、16条(解除等の予告・理由開示)、17条3項(申出を理由とする不利益取扱い)(18条)。13条は勧告の対象に列挙されていない。14条に係る勧告以外は命令ができ、命令をしたときは公表できる(19条1項・2項)。14条に係る勧告は、従わなかったときにその旨を公表できる(同条3項)。同じく22条。

命令に違反した場合は50万円以下の罰金で、行為者のほか法人にも罰金が科されます(24条1号、25条)。この法律に拘禁刑の定めはありません。公正取引委員会は、勧告の概要を事業者名とともに一覧と報道発表資料で公表しています。公表されること自体が、取引先や求職者、金融機関に対する信用に響きます。

公表資料の読み方も押さえておきます。勧告一覧の各行には、違反した条文、取引の内容、違反の期間、対象となった特定受託事業者の数が書かれています。ここから取り出すべきなのは、「どの運用が条文のどこに触れたか」です。業種の名前(放送、出版、教室、運送、施工など)に引きずられて「うちは違う業種だから関係ない」と読むと、型を見落とします。取引の内容が違っても、明示、期日、差引の問題は同じ形で起きています。

確認の問いと理由公表資料を読むときの問い

  1. この事案は、条文のどの行為に当たるとされているか。

    違反法条の欄を最初に見ます。業種や取引の内容より、どの条の何号かが、自社の運用に当てはめる手がかりになります。

  2. 同じ運用が自社にもあるか。

    勧告の概要は、個別の失態ではなく一定の期間続いた運用として書かれています。発注書の様式、締めと支払の設定、差引の設定など、仕組みの側から確かめます。

  3. 是正として何が求められているか。

    減じた額の支払、報酬の引上げ、期日の定め、明示のやり直しなど、措置の内容が書かれています。点検で見つけた問題に対して、何をどこまで直すべきかの目安になります。

型1 取引条件を示さない、一部しか示さない(3条1項)

勧告の概要にもっとも多く出てくるのが、業務委託をしたときに、直ちに、給付の内容や報酬の額、支払期日などを書面か電磁的方法で示していなかった、という内容です。「全部または一部」を示さなかったと書かれる事案も目立ち、まったく示さない場合だけでなく、項目の欠けた発注書やメールも違反として扱われています。3条の明示義務は、相手方が特定受託事業者であれば、発注者の規模を問わず、1回の発注から生じます。

この型が生まれる運用には、いくつかの典型があります。

  • 依頼は電話、チャット、口頭で出し、金額は請求書が届いてから分かる運用になっている。
  • 基本契約は結んでいるが、個別の発注ごとの内容(給付の内容、受領期日、報酬額)を示す書面やメールがない。
  • 年度の初めに契約書を交わしただけで、その後の発注には何も示していない。
  • 発注書はあるが、業務委託をした日、受領する場所、検査を完了する期日、支払期日のどれかの欄がない。
  • 内容が決まっていない事項があるのに、その理由と決まる予定の時期を示さないまま、決まった後も示し直していない。

示すべき事項は、公正取引委員会規則1条に列挙されています。事業者の識別、業務委託をした日、給付の内容、受領または役務の提供を受ける期日、受領場所、検査をする場合はその完了期日、報酬の額と支払期日が基本の項目です。手形や電子記録債権、資金移動業者の口座への支払などを使う場合は、その追加の事項が加わります。報酬の具体的な額を示すことが困難なやむを得ない事情があるときは算定方法で足りること(同条3項)、一定期間の業務委託に共通する事項はあらかじめ示せば、その期間の発注では共通事項によることを明らかにすれば足りること(同条4項)も、規則に書かれています。

書き方の例(一般的な例) 明示の運用:よくある書き方と整えた書き方

依頼の方法

よくある書き方チャットで「これお願いします」と依頼し、金額と納期は口頭で伝える。
整えた書き方依頼のたびに、給付の内容、報酬の額、支払期日、受領の期日と場所を、決まった様式のメールまたは発注書で送る。

理由口頭や短い依頼文だけでは、必要な項目を満たしません。様式を固定すれば、担当者が変わっても項目が欠けません。

基本契約と個別の発注

よくある書き方基本契約に報酬の単価だけを書き、個別の発注では何も示さない。
整えた書き方基本契約で共通事項を一定期間分あらかじめ示し、個別の発注では、給付の内容、数量、受領期日、報酬の額を示して「その他は基本契約による」と記す。

理由共通事項は、あらかじめ示せば個別の発注で繰り返さなくてよい扱いがあります(規則1条4項)。個別に変わる項目まで省くことはできません。

未定の事項

よくある書き方仕様が固まらないので、金額も納期も書かずに着手してもらう。
整えた書き方未定の事項は、その理由と決まる予定の時期を示す。決まったら、最初に示した内容との関連が分かる形で、直ちに示し直す。

理由未定事項の扱いは条文と規則に定めがあります(3条1項ただし書、規則1条1項12号・5項)。何も示さないまま着手させる運用とは別です。

発注書の項目を整える具体的な手順は条件の明示のページで、仕様が固まらないまま始める場合は仕様と追加依頼のページで扱います。点検は、直近に出した発注10件を取り出し、各件について「業務委託をした日、給付の内容、受領期日、受領場所、報酬の額、支払期日」が、書面かメール等のどこに書かれているかを指でなぞる方法が確実です。

型2 支払期日を決めていない、60日を超える、請求書や事務処理の遅れを理由に払わない(4条)

期日に関する勧告の概要には、三つの形が出てきます。第一に、報酬の支払期日を定めておらず、特定受託事業者から給付を受領した日(役務の提供を受けた日)までに報酬を支払わなかったもの。第二に、受領した日から起算して60日を超える日を支払期日に定めていたもの。第三に、特定受託事業者の請求書が遅れて届いたこと、あるいは社内の事務処理が間に合わなかったことを理由に、定めた期日に報酬を払わなかったものです。

期日の失敗の三つの型

型運用の例条文の扱い直し方
期日を定めていない発注書に支払期日の欄がなく、請求書を受け取ってから経理が締めて払う。定めなかったときは、受領日が支払期日とみなされる(4条2項)。期日までに払う義務(同条5項)があるので、受領日に払っていないことになる。個別の発注でも、基本契約の既定値でも、受領日から60日以内の期日を定める。
60日を超える毎月末日締めで、翌々月の一定日に払う。60日を超えて定めたときは、受領日から60日を経過する日が支払期日とみなされる(4条2項)。月初に受領した分でも60日に収まる締めと支払の組合せに改める。月単位の締切の扱いは支払期日のページで整理しています。
請求書・事務処理の遅れ請求書が遅れたから翌月の支払に回す。社内の承認が間に合わなかったので期日を過ぎた。期日までに払う義務は、請求書の到着や社内の事務処理に左右されない(4条1項・5項)。請求書を支払の条件にしない。請求書がなくても、受領の記録から支払データを作る手順にする。

どの型でも、原因は経理の手順と契約書の記載が別々に作られていることにあります。契約書には「検収後30日以内に払う」と書いてあるのに、経理は「請求書の到着日の翌月末」で払っている、という食い違いです。条文は、検査をするかどうかにかかわらず、受領した日から60日以内の期日を定めることを求めています。検収に日数がかかる場合は、検収が終わらなくても期日が動かないことを前提に、検収の期間そのものを短くする必要があります。数え方の例は支払期日のページに挙げてあります。

受領日からの数え方(一般的な整理)

  1. 受領日(0日目)

    成果物を受け取った日、または役務の提供を受けた日。

    検査の完了日でも、請求書の受領日でもない。

  2. 支払期日

    契約や発注書で定めた日。

    受領日から60日以内で、できる限り短い期間内に定める。

  3. 60日

    受領日から起算して60日の期間の終わり。

    定めがなかったときは受領日、超えて定めたときは60日を経過する日が期日とみなされる。

4条5項には、特定受託事業者の責めに帰すべき事由で支払えなかったときの特則(その事由が消えた日から60日以内)があります。ただし、請求書の提出の遅れや自社の事務処理の遅れを理由に期日に払わなかったことは、勧告で違反とされた型として挙がっています。

型3 報酬から差し引く:振込手数料と、手数料・管理料などの名目の差引(5条1項2号)

報酬の減額の禁止に関する勧告では、振込手数料の差引がもっとも多く出てきます。概要には、少なくとも三つの形があります。振込手数料を特定受託事業者の負担とすることを書面や電磁的方法で合意しないまま、報酬から差し引いたもの。負担について合意はあったものの、実際に金融機関へ払う手数料を超える額を差し引いていたもの。そして、「事務手数料」「管理料」「照合の費用」「対応費用の調整額」といった名目で、報酬から差し引いたものです。名目の差引には、報酬額に一定の割合を乗じて一律に引く形のものも含まれます。

見落としやすいのが、時期による扱いの違いです。公正取引委員会と厚生労働省の「考え方」が改正されたことにより、令和8年1月1日以降に行われた業務委託(1か月以上行うものに限る)では、特定受託事業者との合意の有無にかかわらず、振込手数料を報酬の額から差し引くことが報酬の減額に当たる扱いになりました。勧告一覧の注記にもこの趣旨が書かれています。従来の「振込手数料は受注者負担とする」という条項が契約書に残っていても、それを根拠にした差引は、新しい発注では許されない、という読み方になります。

書き方の例(一般的な例) 差引の運用:よくある書き方と整えた書き方

振込手数料

よくある書き方「振込手数料は乙の負担とし、報酬から差し引く。」
整えた書き方報酬の額は、振込手数料を差し引かない額で定める。手数料は発注者が負担して、報酬を満額で振り込む。

理由1か月以上の業務委託では、合意があっても差引が減額に当たる扱いが新しい発注に適用されています。契約書の記載を改め、経理の差引の設定も外します。

管理料・事務手数料

よくある書き方「管理料として報酬の一定割合を差し引く。」
整えた書き方管理や事務に費用がかかるなら、その分を見込んで報酬の額の側で最初から定める。差引の名目にはしない。

理由特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに報酬を減じることは禁止されています(5条1項2号)。名目を変えても、減額かどうかは実質で見られます。

一律の差引

よくある書き方全取引先に同じ率の差引を自動で設定している。
整えた書き方差引の設定は、特定受託事業者の責めに帰すべき事由で、金額と根拠が個別に確認できる場合に限る。

理由一律の差引は、勧告の対象になりやすい形です。経理の設定を一覧にして、フリーランス向けの支払に適用されているものを確認します。

減額した場合の是正は、条文に書かれています。減じた額の支払が、勧告の内容として明記されています(8条4項)。点検では、過去に差し引いたことがある場合に、その金額と期間を洗い出し、返す手順まで決めておくことが、後の対応を軽くします。禁止行為の全体像は禁止行為の点検のページに、報酬の定め方は報酬の設計のページにあります。

型4 協議なしに報酬を据え置く、無償で提供させる、と取適法の勧告に出る型

報酬の額の決め方でも、勧告の対象になった型があります。ひとつは、費用の上昇があり、その報酬への反映について特定受託事業者と十分に協議することなく、従来どおりの額を一方的に定めたというものです。通常の水準を大きく下回る報酬を不当に決めることも、禁止されています(5条1項4号)。この事案では、勧告の前に、報酬の額を著しく低くはない額まで引き上げ、その分を支払ったと注記されています。もうひとつは、消費者向けの体験の機会について、通常の有償の場合より大きく率を下げた報酬を、協議なしに一方的に定めたものです。

報酬が低いのではなく、報酬のない作業をさせた型もあります。販売促進のために、集客のための体験の機会を、特定受託事業者に無償で行わせていた事案では、発注者のために金銭や役務などの経済的な利益を提供させ、特定受託事業者の利益を不当に害することを禁じる規定が適用されています(5条2項1号)。発注者のための販促や試用の作業は、受託者から見れば、報酬の出ない働きになります。「無料体験」という名前の付いた取組を、発注者自身の集客の仕組みとして使う場合は、その部分の報酬を別に定める必要があります。

確認の問いと理由報酬を据え置く前と、無償の作業を頼む前の確認

  1. 費用が上がっていることを、特定受託事業者に伝え、反映について話し合ったか。

    据え置きそのものではなく、反映の必要性について十分な協議をしないまま一方的に定めた点が問われています。協議の日時、内容、結論の記録を残します。

  2. その作業は、発注者自身の販促や試用のためのものではないか。

    体験、見学、試作、サンプルのように、発注者の事業の側の目的で行う作業は、報酬の対象にするか、少なくとも別の条件を示して合意します。

  3. 通常の業務より低い報酬を設定する場合、その根拠を説明できるか。

    率を下げた設定は、協議の経緯と根拠が説明できなければ、買いたたきに当たるかが問われます。見積りの経緯の記録は報酬の設計のページで整理しています。

取適法(中小受託取引適正化法)の勧告にも、同じ構造の型が出ています。公正取引委員会の勧告一覧(取適法)を見ると、製造委託等に関するものが多く、次のような型があります。

取適法の勧告に出てくる型(要旨)

型内容の要旨関係する規定
無償の保管・作業発注の見込みのない金型などの保管を、保管の費用を負担せずに受託者にさせる。サンプルの製造や記録の保管、運送を無償でさせる。5条2項2号(経済上の利益の提供要請)
手形・換金が困難な支払手段代金の支払に手形を交付する。代金の額に相当する金銭と引き換えることが困難な電子記録債権を使う。5条1項2号(支払遅延の禁止に含まれる)
名目による一律の減額「システム利用料」のような名目で、例外なく一定の割合を代金から減じる。5条1項3号(減額の禁止)
振込手数料の差引手数料の負担の合意はあっても実費を超える額を引く、または合意なく引く。5条1項3号
受領後の期日超過受領日から60日以内に支払わない。3条、5条1項2号

令和8年6月に公表された運用状況では、令和7年度の取適法の勧告のうち、不当な経済上の利益の提供要請が大半を占めていました。勧告一覧には、行為の時期によって旧下請法の条番号と取適法の条番号が併記されているものがあります。2026年1月1日をまたぐ取引では、どちらの法律の条文で評価されたのかを、違反法条の欄で確認します。フリーランスへの発注が両方の法律の対象になる場面の整理は対象の判定のページにあります。

厚生労働省・都道府県労働局の指導に見られる型(12条・14条・16条)と、自社の点検

就業環境の整備に関する義務(12条から16条)では、公表されている勧告ではなく、都道府県労働局の指導・助言の事例が、厚生労働省の「就業環境整備のポイント」に事業者名なしで載っています。同ページによると、労働局の指導では、ハラスメント対策の体制整備(14条)に関するものがもっとも多く、中途解除等の予告・理由開示(16条)、募集情報の的確表示(12条)に関するものも見られます。事例に書かれた型を、条文ごとに整理します。

労働局の指導・助言で見られた型

条型整え方詳しい説明
14条従業員向けのハラスメント規程と窓口はあるが、業務委託先向けの規程と窓口がない。業務委託におけるハラスメント防止の規定と窓口を整え、周知する。配慮と相談体制のページ
14条非営利団体で、ハラスメント禁止の規定、周知、窓口がない。非営利でも事業活動として業務委託をすれば義務の対象になる。体制を整えて周知する。同上
14条相談者や行為者のプライバシーを守る措置と、相談を理由に不利益に扱わない旨の定めがない。両方を定めて、業務委託先に周知する。同上
14条相談を受けて事実の調査などは行ったが、再発防止の措置を講じていない。方針の再周知や研修など、再発防止の措置まで行う。同上
16条解除の予告を口頭で行った。書面、ファクシミリ、記録を出力できる電子メール等で予告する。終了と予告のページ
16条予告をせず、理由の開示請求にも口頭で説明した。30日前までに予告し、理由の開示も書面または電子メール等で行う。同上
16条予告不要の例外に当たる契約と当たらない契約が混在するのに、当たらない契約まで予告せずに解除した。契約ごとに例外に当たるかを整理し、当たらない契約は予告する。同上
12条報酬額を変更したのに、複数の媒体のうち一部の募集情報が古いままだった。変更の都度、すべての媒体の募集情報を更新する。発注前の作業と募集情報のページ
12条フリーランスの募集か労働者の募集か判然としない表示だった。どちらの募集かを明確に表示する。同上
12条報酬が確定していないことを理由に、報酬を記載しなかった。目安となる金額などを記載する。同上

14条の指導が多い背景には、従業員向けの体制を整えているので十分だろう、という思い込みがあると考えられます。業務委託先は雇用された人ではなく、就業規則の対象にもなりません。窓口が使えることが業務委託先に伝わっていなければ、体制を整えたことになりません。16条は、予告をしたかどうかに加えて、予告の方法と理由開示の方法が問われています。12条は、掲載後の更新と、必要な事項の記載が問われています。いずれも、運用を後から確認できる記録の有無が分かれ目になります。

勧告・指導の型から作る、自社の点検

  • 直近の発注について、業務委託をした日、給付の内容、受領期日と場所、報酬の額、支払期日が、書面またはメール等に書かれているか(型1)。
  • 基本契約の下で、個別の発注ごとに示す項目と、基本契約の共通事項としてあらかじめ示す項目を分けてあるか(型1)。
  • 支払期日が受領日から60日以内に収まる締めと支払の組合せになっているか。請求書の到着や社内の承認を、支払の条件にしていないか(型2)。
  • 経理の差引の設定(振込手数料、手数料、管理料、一律の率)の一覧を作り、フリーランス向けの支払に適用されていないか確認したか(型3)。
  • 過去に差し引いた額がある場合に、金額と期間を洗い出し、返す手順を決めたか(型3)。
  • 費用の上昇や報酬の見直しについて、特定受託事業者と協議した記録があるか(型4)。
  • 体験、見学、試作、サンプルなど、発注者自身の販促や試用のための作業に、報酬の定めがあるか(型4)。
  • 業務委託先が使えるハラスメントの相談窓口と、プライバシー保護、不利益取扱いをしない旨の定めを、周知しているか(14条)。
  • 契約の解除と不更新の予告を、書面または記録の残る電子メール等で出す手順にしてあるか。例外に当たる契約の整理表があるか(16条)。
  • 募集情報の掲載媒体の一覧と、変更・終了時に更新する担当者が決まっているか(12条)。

起きがちなこと

勧告・指導の型で起きがちなこと

  • 契約書の書式は法律に沿って作ってあったが、実際の発注は口頭とチャットで、発注書の運用が追い付いていなかった。
  • 支払期日は契約書で60日以内に定めていたが、経理は請求書の到着日を起点に処理しており、請求書の遅れがそのまま支払の遅れになっていた。
  • 旧来の契約書に残っていた「振込手数料は受注者の負担」という条項に従って、新しい発注にも差引を続けていた。
  • 「管理料」「事務手数料」という名目の差引が、経理システムに全取引先共通の設定として残っていた。
  • 費用が上がった時期に、報酬の見直しの話をしないまま、前年と同じ額で発注を続けていた。
  • 販促のための体験の機会を、通常の仕事の一部として頼み、その分の報酬を決めていなかった。
  • 従業員向けのハラスメント窓口があるので足りると考え、業務委託先に窓口を案内していなかった。
  • 契約を終えるときの予告を、担当者が口頭で伝えただけで、書面にも電子メール等にも記録が残っていなかった。
  • 募集情報の報酬額を変えたが、複数の掲載媒体のうち一部が古いままだった。

出典と確認日:公正取引委員会の勧告一覧(フリーランス・事業者間取引適正化等法、令和7年度と令和8年度)、同じく勧告一覧(取適法、令和7年度と令和8年度)、同委員会が令和8年6月に公表した令和7年度の運用状況(フリーランス・事業者間取引適正化等法第2章の運用状況、および取適法等の運用状況)、厚生労働省「フリーランス・事業者間取引適正化等法に基づく就業環境整備のポイント」。いずれも2026年10月22日に確認しました。条文は e-Gov法令検索(同日時点)で確認しています。各資料の要旨は、このページの筆者が自分の言葉で整理したもので、個別の事業者名や案件は記載していません。

よくあるご質問

勧告を受けると、事業者名は公表されますか。

公正取引委員会は、フリーランス法の勧告について、勧告一覧と報道発表資料で、事業者名、違反した条文、違反の内容を公表しています。取適法の勧告も一覧で公表されています。命令をしたときの公表は、公正取引委員会が9条2項、厚生労働大臣が19条2項に定めています。14条に係る勧告に従わなかったときは、その旨が公表されることがあります(19条3項)。

勧告と指導は、どう違いますか。

勧告は、違反があると認めたときに、是正のために必要な措置をとるべきことを求めるものです(8条、18条)。指導・助言は、法の施行に必要があると認めるときに行うもので、違反が認定されていない段階でも行われます(22条)。公正取引委員会の令和7年度の運用状況では、措置のうち大半が指導で、勧告はごく一部でした。勧告は一覧で個別に公表されますが、運用状況の公表資料では、指導は件数と違反類型の集計で示されています。

取引の数が少ない小さな発注でも、勧告の対象になりますか。

勧告の概要の多くは、一定の期間に多数の特定受託事業者へ同じ運用を続けた事案です。ただし、3条の明示義務は、特定受託事業者への発注であれば1回の発注から生じ、発注者の規模も問いません。4条の期日の義務や5条の禁止行為は、特定業務委託事業者(従業員を使う事業者など)に及びます。件数が少ないことは、義務が生じないことを意味しません。

差し引いてしまった手数料を返せば、問題はなくなりますか。

減じた額の支払は、勧告の内容として条文に書かれた措置の一つで(8条4項)、勧告の概要にも、勧告の前に支払った旨の注記が見られます。ただし、返金は過去の差引への対応です。差引の設定や契約書の条項を改めなければ、同じ運用が続きます。令和8年1月1日以降の業務委託(1か月以上のもの)の振込手数料は、合意の有無にかかわらず減額に当たる扱いである点も、あわせて確認します。

フリーランス法と取適法の勧告は、どちらも自社に関係しますか。

相手方が従業員を使わないフリーランスで、自社が従業員を使う事業者なら、フリーランス法が関わります。同じ取引が、資本金や従業員の基準と委託の類型に当てはまれば、取適法の対象にもなります。取適法の勧告には製造委託等の事案が多く出ていますが、不当な経済上の利益の提供要請や減額の型は、フリーランスへの発注にも通じます。どちらが関わるかの判定は、対象の判定のページで順番に整理しています。

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