このページの要点
- 特定業務委託事業者は、性的な言動、妊娠・出産に関する言動、優越的な関係を背景とした言動について、相談に応じ適切に対応するための体制を整備する(フリーランス法14条1項)。
- 窓口は、業務委託先が使えることが分かる形で契約書・規約・発注書に示し、対応の流れ(受付、事実確認、是正、再発防止、経過の確認)を決める。
- 継続的業務委託(6か月以上)では、育児介護等と両立するための申出に応じた必要な配慮が義務、それ以外は努力義務(13条)。
- 相談したこと等を理由とした契約の解除その他の不利益な取扱いは禁止(14条2項、6条3項、17条3項)。具体的な措置は厚生労働大臣の指針(15条)の原文で確認する。
結論:業務委託先にも、相談に応じる体制と、育児・介護への配慮が、取引上の義務として求められる
フリーランスとの取引では、報酬や契約の終了に加えて、取引の場での言動に関する体制の整備と、妊娠・出産・育児・介護への配慮が、特定業務委託事業者の義務として定められています。業務委託の相手方は雇用された人ではないため、就業規則の対象になりません。そこでフリーランス法は、雇用とは別に、取引上の義務として次の二つを置いています。
- 業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置(14条)。特定受託業務従事者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じる義務です。
- 妊娠、出産もしくは育児または介護に対する配慮(13条)。継続的業務委託では、申出に応じて必要な配慮をする義務、それ以外の業務委託では、配慮をする努力義務です。
これらの義務は、契約書、発注書、規約に何を書き、窓口をどう設けるかという形で、取引の書類に表れます。このページでは、取引上の義務としての整理に絞り、雇用された人の労務管理や社内規程の作り方には踏み込みません。次の順に整理します。
- 14条の「体制の整備その他の必要な措置」の内容と、対象になる言動の三つの類型。
- 契約書・規約・発注書への窓口の書き方。
- 申出を受けたときの対応の流れ。
- 育児・介護等への配慮(13条)の義務の範囲。
- 申出や相談を理由にした契約解除・取引の停止の禁止。
- 厚生労働大臣の指針との関係と、勧告・公表の仕組み。
契約の終了と予告は解除予告のページ、禁止行為は禁止行為の点検のページで扱っています。
14条の体制整備:対象になる言動の三つの類型
14条1項は、特定業務委託事業者に対し、その行う業務委託に係る特定受託業務従事者に対して、業務委託に関して行われる次の言動により、一定の状況に至ることのないよう、その者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じることを求めています。特定受託業務従事者とは、特定受託事業者である個人と、特定受託事業者である法人の代表者のことです(2条2項)。この義務は、業務委託の期間の長短を問わず、特定業務委託事業者に及びます。
14条1項が対象とする言動(要旨)
| 類型 | 言動 | 起きてはならない状況 |
|---|---|---|
| 性的な言動 | 性的な言動に対する特定受託業務従事者の対応により、業務委託の条件について不利益を与える、または性的な言動により就業環境を害すること(1号)。 | 業務委託の条件の不利益、就業環境の悪化。 |
| 妊娠・出産に関する言動 | 妊娠または出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものに関する言動により、就業環境を害すること(2号)。省令の事由は、妊娠したこと、出産したこと、妊娠・出産に起因する症状で業務を行えない、または能率が低下したこと、13条の配慮の申出をし、または配慮を受けたこと。 | 就業環境の悪化。 |
| 優越的な関係を背景とした言動 | 取引上の優越的な関係を背景とした言動であって、業務委託に係る業務を遂行する上で必要かつ相当な範囲を超えたものにより、就業環境を害すること(3号)。 | 就業環境の悪化。 |
三つ目の類型は、「強い立場を背景にした言動」で、発注者の担当者による執拗な叱責、不合理な長時間の拘束、人格を否定する発言などが、一般に問題となる例として想定されます。業務上必要な指示や、適切な品質確認は、必要かつ相当な範囲内であれば対象になりません。どこまでが相当な範囲かは、個別の状況で判断されるため、基準を事前に明文化することは難しい領域です。
「体制の整備その他の必要な措置」の具体的な内容は、条文には書かれていません。厚生労働大臣が、14条を含む事項について、特定業務委託事業者が適切に対処するために必要な指針を公表することとされており(15条)、具体的な措置は指針で示されます。指針の内容は、本ページでは断定せず、書く前に原文で確認する必要があります。以下では、条文から導かれる一般的な骨組みを整理します。
契約書・規約・発注書への窓口の書き方
体制の整備は、発注者の社内で完結する作業にとどまりません。相談の窓口があること、誰がどのように対応するか、相談したことで不利益な取扱いをされないことを、取引の相手方であるフリーランスに分かる形で示さなければ、体制があっても使われません。そのため、契約書、取引条件を示す書面、規約のいずれかに、窓口の案内を書く方法が実務で選ばれています。
条文例第○条(相談窓口)
- 乙は、本契約に基づく業務に関して、甲の役員、従業員その他甲の関係者から、次のいずれかの言動を受けたと考えるときは、甲が設置する相談窓口に申し出ることができる。(1)性的な言動により、乙の就業環境を害するもの (2)妊娠又は出産に関する言動により、乙の就業環境を害するもの (3)取引上の優越的な関係を背景とした言動であって、業務を遂行する上で必要かつ相当な範囲を超え、乙の就業環境を害するもの
- 相談窓口の連絡先は、【窓口の名称及び連絡方法を記載】とする。窓口は、相談の内容及び相談をした者に関する情報を、対応に必要な範囲を超えて他に漏らしてはならない。
- 甲は、乙が相談をしたこと、又は甲による相談への対応に協力して事実を述べたことを理由として、乙に対し、本契約の解除、取引の数量の削減その他の不利益な取扱いをしない。
窓口の宛先は、実在の連絡先を記載する欄として空けておく(一般的な例)。契約書ごとに宛先を書き直さなくて済むよう、別紙や規約に切り出す方法もあります。
窓口の案内は、特定受託事業者に当たる相手方に対してだけ必要になるものですが、実務では、相手方が特定受託事業者に当たるかを取引の度に判定するよりも、フリーランス全体に共通の案内を出す運用のほうが簡明です(対象の判定の考え方は対象の判定のページで整理しました)。共通の案内にしておけば、判定を誤ったときにも、窓口の案内が行き届かない事態を避けられます。
契約書に窓口を書くだけでは、体制の整備として十分とは限りません。窓口の担当者が相談内容を適切に聞き取れるか、記録をどう保管するか、相談があった後に誰が事実を確認するか、といった運用面の準備が伴います。契約書の文言は、あくまで運用の受け皿です。
書き方の例(一般的な例) 窓口の書き方
窓口の対象範囲
理由従業員向けの窓口が既にあっても、業務委託先が使えるかが分からなければ、体制の整備を示したことになりません。利用対象を明記します。
対象の言動
理由範囲を条文に合わせておくと、受託者が「これは相談してよいのか」と迷いにくくなります。
不利益取扱い
理由14条2項は、これらを理由とした契約の解除その他の不利益な取扱いを禁止しています。契約書に書いておけば、禁止の趣旨が現場に伝わります。
申出を受けたときの対応の流れ
窓口を置いても、申出があったときの対応が決まっていなければ、体制として機能しません。相談を受けた担当者が、その場で判断を迫られる状況を避けるため、対応の流れをあらかじめ決めておきます。
申出を受けてからの対応の流れ(運用の例)
- 申出の受付
申出の内容、時期、関係者、受託者の希望を聞き取る。
聞き取りは、受託者が話しやすい方法で。記録は必要な範囲に限る。
- 事実の確認
関係者から事実を確認する。
相談者の情報は、対応に必要な範囲を超えて広げない。
- 是正の検討
事実が確認できた場合、言動の停止、担当者の変更などの措置を検討する。
受託者の希望を聞いたうえで、取引への影響が出ないように配慮する。
- 措置の実施
是正措置を行い、再発防止の方法を決める。
受託者への結果の報告も含める。
- 経過の確認
一定期間後に、状況を確認する。
相談を理由とした不利益な取扱いが起きていないかも確認する。
期間の目安は、組織の規模や相談の内容により異なります。ここでは、順序の整理にとどめています。
確認の問いと理由対応の流れで決めておく問い
相談を受ける担当者は、取引の担当者と別の人か。
取引の担当者が相談窓口を兼ねると、相談した側は取引への影響を恐れて申し出にくくなります。担当部門や担当者を分けておくと、相談しやすい構造になります。
相談者の情報は、どこまで共有するか。
事実確認に必要な範囲に限り、関係者に共有します。相談者の氏名や詳細を広く共有しない運用を、書いておきます。
事実が確認できなかったとき、相談者への説明はどうするか。
確認できなかったという結果と、今後の窓口の利用が引き続き可能であることを、相談者に伝えます。結果を伝えない運用は、相談の意欲を失わせます。
育児・介護等への配慮:義務と努力義務の区別
13条は、妊娠、出産もしくは育児または介護(育児介護等)への配慮を定めています。配慮が必要になるのは、特定受託事業者からの申出があったときです。その内容は、継続的業務委託かどうかで区別されています。
13条の配慮の区別
| 区分 | 内容 | 性格 |
|---|---|---|
| 継続的業務委託(政令で定める期間=6か月以上。更新により継続するものを含む) | 特定受託事業者(法人の場合はその代表者)が育児介護等と両立しつつ業務に従事できるよう、その者の状況に応じた必要な配慮をする(1項)。 | 義務 |
| 継続的業務委託以外の業務委託 | 同様の配慮をするよう努める(2項)。 | 努力義務 |
配慮の具体的な内容は、条文には書かれておらず、申出をした人の状況と、委託している業務の性質に応じて決まります。一般的な例として、納期の調整、作業時間帯の調整、オンラインでの打ち合わせへの切替え、育児や介護の事情で急に作業ができなくなったときの調整、などが考えられます。何を配慮すれば十分かは、官公庁の指針で示される内容を原文で確認する必要があります。
条文例第○条(育児・介護等への配慮)
- 乙が妊娠、出産、育児又は介護と両立しつつ本業務に従事することができるよう、乙から配慮の申出があったときは、甲は、乙の状況及び本業務の内容に応じて、納期、作業の方法その他の事項について協議し、必要な配慮をする。
- 甲は、乙が前項の申出をしたこと、又は前項の配慮を受けたことを理由として、乙に対し、本契約の解除その他の不利益な取扱いをしない。
配慮の申出の受け皿と、不利益取扱いの禁止を、二項で書く例(一般的な例)。
配慮は、報酬を一方的に下げたり、取引を打ち切ったりする理由にはできません。申出があったから発注量を減らす、という扱いは、14条1項2号が対象とする言動や、14条2項の不利益な取扱いの禁止との関係で、問題になり得ます。配慮の内容を協議するときは、受託者の希望を聞き、発注者の事業の事情とすり合わせます。
申出や相談を理由にした契約解除・取引停止の禁止
フリーランス法には、相談や申出を理由とした不利益取扱いを禁止する規定が、複数あります。条文ごとに保護される場面が異なるため、整理しておきます。
不利益取扱いの禁止の条文
フリーランス法6条3項
受託者が、公正取引委員会または中小企業庁長官に違反事実を申し出たことを理由として、取引の数量の削減、取引の停止その他の不利益な取扱いをしてはならない。
フリーランス法14条2項
特定受託業務従事者が、14条1項の相談を行ったこと、または相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、契約の解除その他の不利益な取扱いをしてはならない。
フリーランス法17条3項
厚生労働大臣への申出(17条1項)をしたことを理由とした不利益な取扱いの禁止について、6条3項を準用する。
条文は e-Gov法令検索で確認しています。
「理由として」とは、相談や申出が原因である、という関係を指します。たとえば、相談の直後に契約を解除した、相談があった後から発注が急に減った、といった時間的な近さは、理由の関係を疑われる事情になります。反対に、相談とは別の事情(業務の終了、予算の変更)で終わらせる場合は、その事実を客観的に示せるように記録しておくことが、後の疑いを避ける手立てになります。
書き方の例(一般的な例) 契約書の解除事由
相談の扱い
理由相談や申出が解除事由として読めてしまう書き方は、不利益取扱いの禁止との関係で問題になり得ます。契約書の側で、申出が解除事由に当たらないことを明らかにします。
取引の減少
理由裁量が広い条文は、運用で不利益取扱いが起きやすくなります。禁止の趣旨を書き添えて、運用の指針にします。
指針との関係と、勧告・公表の仕組み
厚生労働大臣は、前三条、つまり12条(募集情報の的確な表示)、13条(育児介護等への配慮)、14条(体制の整備)に定める事項に関して、特定業務委託事業者が適切に対処するために必要な指針を公表することとされています(15条)。指針は、条文の趣旨を具体化するものです。体制の整備の程度、窓口の作り方、配慮の具体例などは、指針の内容を原文で確認したうえで運用に反映させる必要があります。
違反があったときの仕組みは、条文ごとに少しずつ違います。厚生労働大臣は、12条、14条、16条、または17条3項で準用する6条3項の規定に違反していると認めるときは、その違反を是正し、または防止するために必要な措置をとるべきことを勧告できます(18条)。13条は、この勧告の対象として列挙されていません。勧告を受けた者が正当な理由なく措置をとらなかった場合、14条に係る勧告についてはその旨の公表ができ(19条3項)、14条に係る勧告以外の勧告については命令ができます(19条1項)。命令に違反したときは、50万円以下の罰金に処せられ(24条1号)、法人の代表者や従業者が違反したときは法人にも罰金が科されます(25条)。仕組みの全体像はトラブル時のページで整理しています。
13条が勧告の対象に列挙されていないことは、配慮が軽い、という意味ではありません。申出に応じた必要な配慮は、継続的業務委託では義務として定められ、配慮の申出をしたこと自体が14条1項2号の事由にも含まれています。配慮を拒んだり、申出を理由に不利益に扱ったりすれば、14条との関係で問題になり得ます。
配慮と相談体制の点検
- 業務委託先であるフリーランスが利用できる相談窓口を設けたか。
- 窓口の存在と連絡方法を、契約書、取引条件の書面、規約のいずれかで示したか。
- 対象の言動(性的な言動、妊娠・出産に関する言動、優越的な関係を背景とした言動)を、窓口の案内に反映したか。
- 相談の担当者を、取引の担当者と分けたか。相談者の情報を共有する範囲を決めたか。
- 相談があったときの対応の流れ(受付、事実確認、是正、再発防止、経過の確認)を決めたか。
- 相談や申出を理由とした契約の解除、取引の停止をしない旨を、契約書や運用の指針に明記したか。
- 育児・介護等への配慮の申出の受け皿(担当者、協議の方法)を決めたか。
- 厚生労働大臣の指針の最新の内容を、原文で確認する担当を決めたか。
起きがちなこと
配慮と相談体制で起きがちなこと
- 従業員向けの相談窓口を案内しているだけで、業務委託先であるフリーランスが使えるか分からず、窓口が利用されなかった。
- 相談窓口の担当者が、相談の対象になった取引の担当者の上司で、相談した受託者が取引への影響を恐れて申し出をためらった。
- 育児の事情で納期の調整を申し出た受託者に対し、発注量を減らすことで対応し、結果として報酬が下がった。
- 契約書の解除事由が広く書かれていて、相談や申出が解除事由として読めてしまう書き方になっていた。
- 相談があった後に、事実確認の結果を相談者に伝えず、相談した側が「何も起きなかった」と受け止めた。
- 厚生労働大臣の指針が公表されていることを知らず、体制の内容を条文だけから判断していた。
よくあるご質問
業務委託先にも、相談窓口を置く義務がありますか。
特定業務委託事業者は、業務委託に関して行われる性的な言動、妊娠・出産に関する言動、優越的な関係を背景とした言動に関し、特定受託業務従事者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じなければなりません(フリーランス法14条1項)。この義務は、業務委託の期間の長短にかかわらず及びます。
育児や介護の事情を申し出られたら、必ず希望どおりにしなければなりませんか。
継続的業務委託(6か月以上)では、申出に応じて、その者の育児介護等の状況に応じた必要な配慮をする義務があります(13条1項、施行令3条)。希望どおりにする義務とは書かれておらず、状況と業務の性質に応じた「必要な配慮」です。それ以外の業務委託では、配慮をする努力義務です(13条2項)。
相談を受けた後に取引を減らすのは問題ですか。
特定受託業務従事者が相談したことや、相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、契約の解除その他の不利益な取扱いをしてはなりません(14条2項)。相談とは別の事情で取引を減らす場合でも、その事情を客観的に示せるように記録しておくことが重要です。
相談窓口の連絡先は、契約書に書くべきですか。
契約書に書く義務があるわけではありませんが、窓口の存在が受託者に分かるようにする必要があります。契約書、取引条件を示す書面、規約などのいずれかに記載する方法が実務で選ばれています。実在の連絡先は、契約ごとに書き直さなくて済むよう、別紙や規約に切り出す方法もあります。
厚生労働大臣の指針は、どこで確認できますか。
フリーランス法15条により、厚生労働大臣が指針を公表することとされています。指針の内容は、所管官庁の公表資料の原文で確認する必要があります。本ページは、条文から導かれる一般的な骨組みの整理にとどまり、指針の個別の内容を断定していません。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への当てはめは、委託の内容や相手方の事業の形によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で確認しています(最終確認日:2026年10月21日)。参考: e-Gov法令検索 / 公正取引委員会 / 厚生労働省 / 中小企業庁